「青い外套を着た女」(横溝正史)

いい男といい女の素晴らしい巡り会い

「青い外套を着た女」(横溝正史)角川文庫

フランスから帰朝したばかりの
土岐陽三は、
手渡された宣伝ビラの裏側に
「青い外套を着た女に会え」という
伝文を見つける。
示されていた場所に彼が赴くと、
果たしてそこには確かに
青い外套を着て
追われている女・美樹がいた。
二人は…。

そこから二人の逃避行的冒険が
始まるのです。
表紙のおどろおどろしさとは裏腹に、
横溝らしからぬ
爽やかな冒険活劇となっています。

本作品の味わいどころ①
主人公・土岐陽三の魅力

本作品は何といっても
主人公・土岐陽三の魅力的な人物設定が
秀逸です。
フランスから帰国したばかりの
貧乏画家で、
全財産はポケットの中の小銭だけ。
ところが仕立てのいいタキシードに、
ピカピカのエナメル靴、
胸に挿した黄色い薔薇、
まさに「水際だった風采」なのです。
それでいて好奇心旺盛、行動力抜群。
機転が利き、勇気もある。
女性には優しい。
申し分のない主人公なのです。

本作品の味わいどころ②
謎の女・美樹の魅力

暴力団に追われている
謎の女・美樹もまた魅力的です。
青い外套の下には
なぜかウェディング・ドレス。
逃避行の途中で記念写真。
土岐の人柄を知り、安心して
彼のアパートに滞在する大胆さ。
父親を思いやるやさしさ。
そして自分の運命に立ち向かう強さ。
極めて現代的な女性です
(ちなみ日本作品の発表は昭和12年)。

本作品の味わいどころ③
細部に拘らない小気味よい展開

純粋な探偵小説では
とことん細部に拘る横溝正史ですが、
本作品はそうした点が皆無で、
物語はテンポよく進行します。
彼女がかばう父親の犯した罪も
詳しい記述はなし。
暴力団との関わりも
くどい説明はなし。
でも、それでいいのです。
本筋に関わりの薄い部分に
拘る必要はないのです。
冒険ものはこうでなくては。

本作品の味わいどころ④
「青い外套を着た女」の謎

土岐と美樹が結ばれ、
しかも美樹の父親が一財産もっていて、
めでたしめでたし。
そして最後に「青い外套の女」の
種明かしがなされます。
偶然と勘違いがいくつか積み重なり、
いい男といい女が
素晴らしい巡り会いを
果たしていたのです。

いい意味で、
横溝正史作品を読んだ気がしません。
まるでO.ヘンリーを読んだような
爽やかな読後感です。
横溝正史は創作初期の段階で
このような作品も書いているのです。
何という豊穣な作品世界でしょうか。
ぜひご一読ください。

※本短編集「青い外套を着た女」は
 旧角川文庫版であり、
 もちろん絶版です。
 しかし昨年出版された
 新角川文庫「丹夫人の化粧台」に
 収録されています。

(2019.4.28)

StockSnapによるPixabayからの画像

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